[CD-R盤]
ベートヴェン/
交響曲第3番 変ホ長調 OP.55「英雄」
バレエ音楽「プロメテウスの創造物」〜序曲 OP.43
ブルーノ・ワルター指揮 フィラデルフィア管弦楽団
1944年2月14日、フィラデルフィア・アカデミー・オブ・ミュージック
放送ライヴ録音
ブルーノ・ワルターが珍しくフィラデルフィア管を客演した際の記録で、米マサチューセッツ州在住のエアチェック・コレクターの提供音源。ただしエアチェックではなく、放送局か大学図書館・資料室等の保管音源のコピーと思われる。
後述するように、当録音は今までライヴ録音とされていたが、演奏会記録に記載されてないプログラムのため少々疑問があり、ライヴ録音ではなく聴衆を入れずに行われた放送のための録音である。
テープ録音が実用化される以前に使用されていた、連続20分程度録音可能な33回転16インチ・アセテート・ディスク・レコーダーによる録音で、収録はArmed Forces Radio Service(米軍ラジオ放送、現在のAFN)。第二次世界大戦中、全米各地および海外駐留の米軍向けに放送された。
トスカニーニ&NBC 響のスタジオ・ライヴのように、放送録音であっても聴衆が入っている場合もあるが、当録音では楽章間の聴衆ノイズが聞こえず聴衆の存在が感じられない。オリジナル・ディスクから、楽章ごとに別のディスクにダビングして楽章間ノイズを消した可能性は否定出来ないが、当時の技術で、このように編集が可能だったのか疑問だ。元々聴衆はいなかったようだ。
音質自体は当時の標準レベルだが、ややナローレンジでアセテート盤特有のスクラッチ・ノイズが持続、会場の元々の残響の乏しさから、硬めのドライな音質で、高音は歪み気味という、やや問題のある状態だった。但し欠落や音楽情報を阻害するような大きなノイズはなく、ディスク化に当たっては、スクラッチ・ノイズの大半を除去、イコライジングで周波数バランスの「暴れ」を補正、高域の周波数レンジを拡大することでドライな音質を緩和するなど対策を行った結果、一応ストレスなく鑑賞出来るレベルまで改善することが出来た。
ブルーノ・ワルターは1944年2月、フィラデルフィア管の2回の定期演奏会(各2公演)に客演した。
記録によれば2月11・12日がモーツァルトの交響曲第40番,R.シュトラウス「死と変容」,ブラームスの交響曲第2番、18・19日がヘンデルの合奏協奏曲第6番,バーバーの交響曲第1番(改訂版初演),ベートーヴェンの交響曲第3番というプログラム。ここには当ディスクに聴く「プロメテウスの創造物」序曲は含まれておらず、しかも、当オリジナル音源の冒頭には「All Beethoven program」とアナウンスがあり、序曲、交響曲の順で演奏が行われている。通常の演奏会としてはプログラムが短いので、ワルターがフィラデルフィア管客演時に、米軍ラジオ放送のために、2つの公演の間(14日と言われる)に録音セッションを組んだのだろう。但し12日の公演後に13日のみのリハーサルで録音が可能だったのか疑問はあるが、プログラムが2曲であり、録音が14日午後以降であれば、当日午前もリハーサル時間を取ることが可能で、無理ではないのかも知れない。
ワルターは、長いキャリアの中でアメリカ各地のオーケストラを指揮しているが、フィラデルフィア管については、意外にも1944年から1948年にかけて、定期演奏会とツアーを含めて6回(2回公演なので計12公演)指揮したに過ぎず意外に少ない。但し同じく米東海岸のボストン響についても同様の状況で、1923年から1947年まで9回15公演指揮したのみだった。ワルターにとって、まずはニューヨーク・フィルが活動の中心であり、生活拠点だった西海岸のロサンゼルス・フィルなどがそれに次ぐ存在だったのだろう。一方、フィラデルフィア管やボストン響としても、当時はオーマンディやクーセヴィツキーが地元で好評を得ており、頻繁に大物のワルターを招く必要がなかったのかも知れない。
とは言うものの、レコード会社がワルターと名門フィラデルフィア管のコンビを見逃すはずはなく、米コロンビアは、1946年1月11・12日のワルター客演の際は、プログラムにあったベートーヴェン「田園」をレコーディング(1月10日・12日、12日は公演日だが?)、1947年2月28日,3月1日の客演の際は、プログラムにあったシューベルト「未完成」をレコーディング(3月2日)するなど、抜け目なく機会を捉えてビジネスに結びつけている。後年のカラヤンのように、レコーディングを前提にコンサート・プログラムを組んだというわけではなく、コンサート・プログラムに併せてレコーディングを組み込んだのだろう。
当ディスクに話を戻すと、ワルター&フィラデルフィア管に対する米軍ラジオ放送の放送用録音は、ベートーヴェン以外にも実施され、直前の2月11・12日のコンサートで演奏されたブラームスの交響曲第2番に、実演では取り上げなかった悲劇的序曲とアメリカ国歌を加えたプログラムをコンサートの前後に録音し、後にプライヴェート・レーベルでCD化されている。こちらもライヴと称されているが、聴衆を入れずに行われた放送用セッションだったと思われる。
いずれにしてもベテランのワルターは、さすがにどのオーケストラを指揮しても自らの刻印を記しており、当ディスクについても、以前からのロマン的柔和な表現に、渡米後、時代の趨勢に合わせて身に付けたスケールの大きさや客観性を加え、後年とほぼ同様の完成された「英雄」像を示していると言える。
ブルーノ・ワルターは、当ディスク以外にベートーヴェンの「英雄」を1941年と1949年米コロンビアにニューヨーク・フィルと、1958年同じく米コロンビアにコロンビア響とスタジオ録音したほか、1957年のライヴ録音がある。
また、「プロメテウスの創造物」序曲を1930年英HMV にブリティッシュ響とスタジオ録音したほか、1947年と1953年のライヴ録音がある。
※総合カタログは下記を参照下さい:
https://www.ne.jp/asahi/classical/disc/index2.html
*【ご注意】
当商品はCD-R盤です。CD-Rは通常の音楽CDとは記録方法が異なり、直射日光が当たる場所、高温・多湿の場所で保管すると再生出来なくなる恐れがあります。
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レーベル: PREMIERE
レコード番号: 60139DF
Stereo/Mono: Mono
録音: 1944.2.14、フィラデルフィア・アカデミー・オブ・ミュージック、放送ライヴ録音