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店主日誌:185
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2016年08月09日
 

 
お客様による恒例のカートリッジ会も、記念すべき10回を迎えました。
ご本人たちはそんなことには関係なく(私が勝手に回数を数えています)、いつもどおりカートリッジとレコードを持参。お土産にお持ち下さったお菓子をつまみながら情報交換、話は弾みます。
 

 
今回はメンバーの方が私どもから購入のレコード、「ボビノ座のバルバラ'67」というシャンソンのライヴ録音盤の聴き較べから始まりました。
たまたま入荷したステレオ盤とモノラル盤両方ともお求め頂いたので、それぞれGoldring ElectroⅡ とAKG P25MD/35 (ステレオ)、Audio-technica AT33MONO (モノラル)で聴き較べ。
この盤、録音はタイトルにあるように1967年ですからもうステレオ時代のレコードですが、フランス盤しかないからでしょうか、手に入る多くはモノラルで、ステレオはかなり稀少。今回の入庫も探してようやく入ってきたものです。
その分少し高いので、もしステレオ盤だけで十分なら、モノラルのほうはキャンセルか、という気持ちで聴き始めたのですが、ピアノ,アコーディオン,ベースというトリオにヴォーカルという構成からしてモノラルも捨て難く、やっぱり両方お買い上げ、ということになりました。ありがとうございます。
 

 
次は古い米COLUMBIA(日本コロムビア盤)のアンドレ・コステラネッツがニューヨーク・フィルを指揮するエネスコの有名なルーマニア狂詩曲第1番。貴重な10吋フラット盤(MONO)で素晴らしい保存状態、ヴェテラン・メンバーのコレクションです。
コステラネッツはソ連のサンクトペテルブルク出身、アメリカに亡命後はご存じのように自身のオーケストラを振ってライトクラシックやイージーリスニングの先駆けとして活躍しましたが、このレコードのようにメジャーオーケストラを振って本格的な録音も行っていました。
これがまた録音も含めてなかなかの演奏で、引き締まったNYフィルを自在に操って民族色豊かな演奏を聴かせてくれました。カートリッジはAudio-technica AT33MONO 。
 

 
次はMICRO M-2000/5 とAudio-technica AT-160ML という2つのステレオ・カートリッジでステレオ初期のクラシックとジャズの名盤を。
DECCA (LONDON)のアンセルメ/展覧会の絵と、CONTEMPORARY のアート・ペッパー/Art Pepper Meets The Rhythm Section、どちらも名盤ですね。
とくにマイクロのカートリッジは'60年代の製品(!)ながら驚くほど生彩感あふれるサウンドを披露して(オーナーも含めて)一同ビックリ。マイクロはカートリッジのイメージはあまりありませんでしたが、認識を新たにしました。
 
今回は、以前たまたまメンバーの1人と当店で会って話が合い、次のカートリッジ会に参加をお誘いしていたお客様が仕事を終えてから駆け付けて下さって、後半に参加、ちょうど10回目の新メンバー(?)となりました。
2016年08月03日
 

 
先日、仕入れ先の営業の方が、英国 IsoTek 社のクリーン電源 EVO3 AQUARIUS(アクエリアス)を持参してくれました。何だか、のどの渇きを癒してくれそうな名前です。
立派なプリメインアンプか小型パワーアンプくらいの大きさがあって高級感漂い、ラックの後ろに隠しておくのはもったいないくらいのコンポーネントです。

「CDかアンプあたりをここに繋いでみませんか?」と言うのですが、
[え?今さらクリーン電源は目新しくもないし、ラックの後ろに潜るのメンドクサイしなあ..](心の声)
と早速持ち前のものぐさが顔を出し、一瞬躊躇していると、それを見透かしたようにすかさず、
「では、簡単に効果を試すことが出来るので、ちょっとやってみましょう」
と、何やら小さな箱を取り出します。
「まず、この電源アナライザーを壁コンセントに挿してみます」
でんじろう先生のビックリ実験を見守る子供のような気がしてきました。
するとビックリ、アナライザーには小型スピーカーが仕込んであり、そこから盛大にピーピー,シャーシャーとノイズが出まくり、加えてラジオ放送もかなりはっきり聞こえます。
家庭用電源にのった可聴帯域のノイズを強調して分かり易く出しているのでしょうが、それはそれはひどいものです。
当然ある程度のノイズはのっていると分かっているつもりでも、それを音にしてはっきり聞かされてしまうと、そのままオーディオ機器を繋いで「ああ、いい音だ」と聴いている自分が恥ずかしくなってしまいます。
音だけではなく、アナライザーのパネルには小さなディスプレイがあって、ノイズのレベルを 1000 をMAXとして表示します。困ったことにうちの壁コンセントは800台、繁華街のマンションの1階ですから予想はしていたものの、うーんかなりひどい! また、試しに作業用の数メートルある長い電源タップに繋いでみると、1000 超えのオーバー表示、最悪の状態です。

さて、ここからが見せ場です。
アクエリアスを先ほどの壁コンセントに繋いで、今度はアクエリアス背面にある出力コンセントにアナライザーを挿してみます。
あれ? ちゃんと繋いだ? アナライザーのスピーカーはうんともすんとも言いません。先ほどはあれほどうるさくわめいていたのに、全くの無音です。
「裏のスイッチでも押してるんじゃないの?」と冗談半分に言ったものの、誰でも分かるその効果は絶大、のようです。

数値表示も数十からほぼゼロのあたりを示し、確かに効果の大きさがうかがわれます。

既に数多く存在するクリーン電源,電源フィルターなどもこのアナライザーを試すとそれぞれ効果は確認出来るものの、ここまで低減されるものは無い、とのことでした。

IsoTek は2001年創立とのことですので、まだ比較的若いメーカーですが、独自のフィルター技術を武器に、彼らの高性能オーディオ用電源コンディショナーは世界的にも高い評価を得るに至っています。
あればいいのは分かっているけれど、そのうちにね、という方、安くはありませんが、これはご検討頂いていいかもしれません。

それにしても、あの電源ノイズ・アナライザー(IsoTek製ではありません)、欲しいなあ。
2016年07月15日
 

 
クリアオーディオのTT3 はリニアトラッキングアームということがあり、納品には気を遣う製品です。
今回お納めしたお客様はすでに私どものお得意様ですが、ご自身でプレーヤー側など万全な準備の下、取り付けを完了されました。
プレーヤーはTechDAS のAir Force Ⅲ、現代最先端のアナログ機器同士の注目の組み合わせですが、両者のデザイン,仕上げがぴったりマッチして、写真のとおり(小さくて恐縮ですが)、まさに純正のごとく見事なまとまりの良さです。
もちろん肝心の音も素晴らしく、動作も完璧で、まずはご満足とのこと、誠にありがとうございました。
2016年06月22日
 
ENTRE EC-25LP
 
お客様自主開催による恒例の「カートリッジ会」、第9回を迎えました。
若手メンバーの方は引っ越し先の埼玉県からのご参加です。
今回もお二人が持ち寄ったレコードを中心に、それに相応しい、或いはこれで聴いてみたい、というカートリッジを選んでかけるやり方で進めました。

往年の名盤、シルヴェストリ指揮の「新世界より」、本国共通のスタンパーによるプレスの国内モノラル初期盤は、モノラルのENTRE EC-25LP で。
実にフレッシュで勢いのあるライヴのような音楽がスピーカーから奔流となってほとばしる様は壮観! この録音で西欧に打って出たシルヴェストリの意気込みが、ひしひしと感じられる再現です。レコードとカートリッジの息もピッタリ合っていました。

Victor MC-1

次にジュリアード弦楽四重奏団とレオン・フライシャーによるブラームスのピアノ五重奏曲。
これはオリジナルの米EPIC モノラル盤とステレオ盤が揃っていたので、それぞれ先ほどのENTRE EC-25LP とVictor MC-1 とで聴き比べました。
モノラルは先ほどの新世界同様、骨太の音楽が激流のごとく押し寄せる気迫がとにかくすさまじく、ステレオの力みのない自然な流れとは、刻まれている音も、またそれを拾うカートリッジもそれぞれの特色が混然一体となって、同じ録音でも違った聴こえ方をすることがはっきり分かりました。



LONDON国内初期盤のボスコフスキー指揮ウィーン・フィルによるウィーン音楽集「PHILHARMONIC BALL」はDECCA録音の冴えた響きを聴くべく、DENON DL103SL をチョイス。
ポルカ「狩」での銃発砲の効果音はびっくりするほどの生々しさで、一同思わず飛び上がりました。

ちょっと珍しいものということでお持ち頂いたB&O MMC4000 では、巌本真理弦楽四重奏団とランスロによるモーツァルトのクラリネット五重奏曲を。中域の充実した密度の高い室内楽を堪能しました。



最後に、魅力的なドイツ人(?)女性が載ったジャケットのことがさっきから気になっていた店主が、持ち主のメンバーにリクエスト、「ドイツ・アルプスの音楽」をFR のPMC-1 で鑑賞(写真が小さくでゴメンナサイ)。超絶技巧のヨーデルを聴きながら、もっぱら店主はジャケットに見入っていました..。

あっという間に4時間。また素敵なレコードとカートリッジ、持って来て下さいね。
2016年06月12日



秋葉原(というか御茶ノ水)で開催されたアナログオーディオフェア2016 に行って、先ほど帰ってきました。
いつものごとく出足が遅れて会場には昼過ぎに着いたのですが、今年は去年に比べてフロア数で2倍の広さになったためか、大幅に出展社が増えたにもかかわらずひどい混雑は少なく、比較的ゆっくりと見たり、聴いたり、訊いたりすることが出来ました。
但しそれは今日の午後だったからだったらしく、昨日、土曜日はまだ非公式な数ながら今日の1.5倍以上の入場者があったようで、かなり混雑したそうです。

いつもは大体一番上の階から見ていくことが多いのですが、今回は何となく一番下2階からスタート。
この会場は広いホールに小さな出展社が露天市のように集まっていて、個人規模のメーカーが大多数なだけに個性的なところが多く、個人的にも関心の高い会場です。

ゾノトーン(前園サウンドラボ),グランツ(ハマダ電気)、ベルドリーム(フェア主宰)はいつもお馴染み。
ロッキーインターナショナルに高級そうな黒いターンテーブルが置いてありましたので、「だいぶ前にアナウンスのあったAcoustic Signatureのプレーヤーはどうなりましたか?」と訊くと、最近発売を開始したそうで(5月2日)、まだWebサイトサイトは準備中とのこと。でもひと通り5,6機種の国内ラインナップがあり、30万円台から100万円超まで揃っています。展示してあったのはSTORM MK2 という高級機で価格は95万円也。
また単体トーンアームもあり、精度感のある9インチのTA-1000 (下から3番目)が22万円と比較的こなれた価格であるのは嬉しいところです。
またロッキーインターナショナルからは新規に米Soundsmith サウンドスミスのカートリッジが発売されることが決まったそうです。こちらも詳細が決まりましたらお知らせします。

国産真空管アンプの雄、ウエスギは後継者にバトンタッチ、代表であり設計者の藤原伸夫氏にお会いしました。すでに創業者のスピリットをしっかり受け継いで新たな一歩を確実に進めているのは周知のとおりですが、藤原氏も既に長い実績をもつヴェテラン・デザイナー、実は店主のかつての先輩社員にあたることもあり、個人的にも期待大なのです。
今後本格的に扱いをしてまいりますので、新生ウエスギ・アンプもよろしくお願い致します。

MASTAZ マスタツ・オーディオプロジェクトはかねてから注目していた新しいブランド。工業デザイナーである増田泰彦氏が主宰するオーディオラックを中心としたメーカーです。
ラックの実物を初めて拝見しましたが、しっかりしたつくりでもちろんデザインも秀逸、使い易く、そして嬉しい価格。これも扱いを開始しましたので、追々ご紹介させて頂きます。

もうひとつ、ラック関係で、これも前から気になっていたものですが、margherita マルゲリータというデザイン・ファニチャーで、レコードやCDのためのラック,ボックス、本棚,書類・ファイル棚,引き出しからデスク,チェアーまで実に様々な製品を手掛けています。母体が建築設計事務所なのでデザインが優れているのもポイント。天井から床まで、壁面いっぱいに設置出来るレコード棚などもあり、レコード好きは一見の価値あり。
これも追々ご紹介していきます。

4階では、トライオードが大きめのブースを使って山崎氏のデモは相変わらずの盛況。
SPEC スペックも、私が部屋に入った時はアナログでなくデジタルでのデモでしたが、アンプをはじめとする同社の製品はもちろん、輸入販売するフィンランドのスピーカー、amphion アンフィオンが北欧の空気ともいうべき(実際に嗅いだことは無いですが)実に清々しいサウンドを聴かせてくれて、去年と同じく好印象。これはおススメのスピーカーです。

既に当店のNewsでもお伝えしましたが、光電カートリッジのDS Audioは満を持して最上級機、DS Master1(カートリッジと専用イコライザーアンプのセット)を初めて展示、デモしていました。
イコライザーアンプが大型プリメインアンプ並みに大きくなってしまったため、ツートンカラーにしてスマートに見せる工夫をしたなど、開発者から伺いました。

上がって一番上の5階では、ZYXのカートリッジでまずバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータをオランダの奏者、テオ・オロフの演奏で、その後モノラルのR100-MONO に替えて、モノラル盤のヨッフムのオルフ「カルミナ・ブラーナ」(バイエルン放送響)とスイトナー&SKDのチャイコフスキー 弦楽セレナーデ、という大変凝った音源でのデモを楽しませてもらいました。生き生きして鮮度の高い音はZYX以外の何物でもありません。アンプはソネッティア,スピーカーはプロアックと、お馴染みの構成に加えて、独アマゾンの漆黒のターンテーブルが光っていました。

中央の大きな部屋にも注目のメーカーが集結しました。
まず国内のショウ初お目見えとなったアームとターンテーブルのReed。独創のターンテーブル3C と、近日輸入が開始される伊AUDIA オーディアのハイエンド・アンプで充実したサウンドを披露(スピーカーは同室の他社と共通でソナス・ファベールのAmati)。
他にもViV laboratory,Phasemation,Aurorasound,Audio Noteなどが入れ替わりながら多くの来場者を集めていました。

Air Tight(A&M)とMy Sonicはいつもタッグを組んでデモしています。
ターンテーブルはもちろんTransrotor。スピーカーは今回YG ACOUSTICS のCarmel 2 を使用、高槻工業製300Bを積んだシングル・パワーアンプ(近日発売予定)と組んでのデモは、音離れの良さが際立っていました。
ところがデモの途中、レコードをかけ替える際に、何の前触れもなくマイソニックの松平氏が機材のところへ行って、何やら同社のMCトランスのケーブル接続をいじり始めました。
デモ中のA&M須田氏も打合せ外のことに「何をされたんですか?」と何だか訳が分からないといった面持ちで問いかけますが、松平氏のほうはそれには答えず、いたずらっ子のようにニヤリとして、音も出さずにレコードをかけ続けています。音を出そうとする須田氏を制止して、「音はまだ。少し熟成させましょう」(??) かけていたLPが竹内まりあの「ウィスキーはお好きでしょ」だったのに引っ掛けての発言です。
無音で針が載ってレコードだけが回るなか、一同?? 1分強ほど経ったでしょうか、「さて音はバーボン、それともスコッチになりましたでしょうか?」と松平氏、同じ曲を音量を変えずにそのまま再生しました。機材は全く同じなので変わるはずもないのですが、おや?不思議や不思議、少し変わったかな、ときどきちょっときつめになるかなとの感もあったのが、輪郭が少しスッキリして見通しの良い、よりストレスの無い音に聞こえます。よく聴いてみると、いや、結構変化しているようにも聞こえます。
まだいたずらっぽくニコニコしている松平氏、さて、種明かしです。実は手の中に手製のショート・プラグを2個隠し持っていて、アームケーブルの出力のところで左右それぞれ+-をショートし、そのままある時間再生することで、音声信号によるカートリッジの自己消磁をしていたのです。ああ、なるほどね、という方も多いと思いますが、オーロラサウンドなど、同じ方法で消磁する機能をもつフォノイコも存在します。
松平氏が海外のショウで出展者にこの小技を教えると、彼らがデモの際に実践、とてもウケるので喜ばれるのだそうです。向こうではゴッドハンドの松平と呼ばれるとか。
何だか面白い理科の先生の授業を聞いたようで、こちらも思わずにっこり、とても有用なワンポイント・アドヴァイスのひと時でした。
週に一回くらいやるといいそうですので、皆さんもぜひお試しあれ。これはMC昇圧トランスの出力でも同じように有効で、トランスの消磁に役立ちます。但しアクティブな機器、例えばフォノイコではダメ、回路を破損してしまいますのでご注意。
2016年05月30日
 
第一生命から第29回「サラリーマン川柳」コンクールの小冊子が届きました。
読んでみると思わず力なく笑ってしまう脱力名作も多く(店主はこういうのが好きです)、勝手にマエストロ・ガレージが選ぶ10選をご紹介します。
元々のベスト100の上の方から並べているだけで、順番はあまり関係ありません、どうでもいいですが念のため。
最後のも見てね。

(1)
娘来て
「誰もいないの?」
オレいるよ

(2)
じいちゃんが
建てても孫は
ばあちゃんち

(3)
決めるのは
いつも現場に
いない人

(4)
気を遣い
妻を目で追う
オレとイヌ

(5)
「まぁ聞けよ」
もう聞きました
5回ほど

(6)
「休みます」
新入社員の
紙対応

(7)
定年後
帰りは何時
聞く側に

(8)
「ご」を打つと
自動変換
「ごめんなさい」

(9)
ただでさえ
無礼な部下の
無礼講

(10)
地方より
創生したい
我が家庭

(番外、店主作)
妻買った
健康器具は
今物干し
(字余り!)
2016年05月23日
 
「電波新聞」といっても一般の方にとっては馴染みの無い名前かもしれませんが、電機業界ではとてもポピュラーな日刊紙で、店主もかつて大昔メーカー勤めのころには、各部署に毎朝届いて上長から順番に回し読みしていました。私なんかは最後の最後、一部切り抜きされていたりしましたが、それを課長や主任が明日の朝礼のネタにするわけです。

そんな業界紙ですから載っているのは大手の電機メーカーや部品メーカーの話題や新製品、業界や市場の動向、或いは販売店情報も大型量販チェーンなどについてですが、ここ1年半ほど、「注目の老舗オーディオ専門店」という題で全国のオーディオ・ショップを毎週1軒ずつ取り上げて紹介する記事を連載しています。
多くは地域に何店舗も構えるような大手有名店ですが、どのような経緯か、私どものような極小手(大手の反対語のつもり),超専門的個人商店を取り上げて頂けるのは有り難い限りです。

来店されたのは大橋氏と小川氏、世代は大きく異なるお二人のコンビネーションがなかなか絶妙で、こうして全国様々な店を取材しながら世代継承も兼ねて続けているのだとか。実に素晴らしいことではありませんか。
実は大橋氏は知る人ぞ知る電子工作業界(?)の大御所で、電波新聞社の「電子工作マガジン」編集長も兼ねています。
かつてのオーディオ全盛時代真っ只なか世代でもあり、つい取材を離れて熱く語り合う場面もあり、大変楽しいひと時を過ごさせて頂きました。

記事は6月3日・金曜日付の電波新聞に載せて頂きましたので、もし機会がありましたらご覧になって下さい。
2016年05月18日

お得意様愛用のCDプレーヤー、PHILIPS LHH700 の修理を行いました。

既に発売から四半世紀を経た製品ですので各部での劣化は避け難く、とくにメカニズム部分は動作に不具合が出て当然といえます。
今回の症状はCDがうまくローディングされず、かからないというものでした。

分解しドライヴメカを外してチェックすると、ローダーを駆動するベルトが4本とも劣化していましたので、新しいものと交換しました。
同時にベルトが滑らないようプーリーを清掃、ローダーがそれに沿って動くスライドロッドとガイド部分も清掃した後にグリースを塗って仕上げました。
ドライヴメカを位置調整しながら再設置、各部清掃・点検の後、動作確認すると、ローディングは力強く滑らかに動作、CDの読み取りも遅延無く完了し、まずは良好な状態です。

LHH700 はドライヴメカにスイングアーム式ピックアップをもつPHILIPS のCDM-4 を積んでいますが、多くのPHILIPS メカが既に劣化で動作不可の状態となっている中では、比較的使用時間が少なかったのでしょう、まだちゃんと動いているので、これからもしばらくの間はお使い頂くことが出来そうです。
2016年05月08日
 
レコード好き誰もが認める英DECCA盤の音の良さに関して、そのひとつの裏付けとなる証言をご紹介させて頂きます。

音元出版の「analog」誌に載った内容ですからご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、長年キングレコードのエンジニアを務めた菊田俊雄氏に現役当時の話を聞く連載記事の中の一部です(一部抜粋):

キングレコードと英デッカとの原盤契約が成立したのが'53年だが、、それから長年にわたってクラシック曲に関してはメタル原盤(メタルマザー)しか渡されなかった。
メタルマザーからスタンパーを作るのだが、メタルマザーはスタンパーを何枚も作っているうちに壊れてしまう。そこでテープにして欲しいと頼むのだが、音質が変わってしまうからという理由でなかなか許可してくれなかった。
そこでキングでは度々、洋楽部からテストカットのためのテープを送って欲しいと交渉を重ねた結果、やっとマスターテープのコピーを送ってもらえることになった。

菊田 「マスターテープが到着した時、レコードがあんなにいい音なのだから、より原音に近いテープはさぞかし素晴らしい音が聴けるだろうと思ったのです。しかし、予想は完全に外れ、思っていたような美音ではなかった。レコードのほうがずっといい雰囲気の音なのです。」
菊田氏のかねてからの持論は「一番音がいいのはマスターテープではなく、きちんと仕上げられたレコード盤」というものだが、デッカのレコードはまさにこれを実証したことになる。

菊田 「デッカのクラシックは全体の周波数特性を大幅に変えるようなことはしていませんが、盤の再生状況を想定してカッティングの調整はしているようです。再生針先のトレーシングを考慮して、やたらに高域を伸ばすことで発生する害のある音を防止したり、位相特性や過渡特性など単なる周波数特性以外にも配慮されているようです。
ラッカー盤にカッティングする過程でも溝の切れ味や深さで聴感的には大きく変わりますが、特性の数値上には表れることはありません。つまり職人技の範疇となります。
デッカのレコードでも単に忠実にレンジを拡げるという方向ではなく、60~10kHz位までの音を重視してきちっと仕上がるように配慮されています。要するに音楽にとって最も大切な情報が、この帯域にちゃんと入っているのです。なかなかうまい音づくりだなと感心させられることが多いですね。」

そう伺うと英デッカはオリジナルのサウンドに対する思い入れが他のレコード会社より強いように思える。
菊田 「デッカから送られてくるマスターテープにはA面の頭に必ず40~16kHzまでの信号が細かく入っていて、この帯域がフラットになるように調整してカッティングすることになっていました。マスターテープを再生する場合、1本ずつテープレコーダーのヘッド・アジマスや位相を調整してからカッティングする必要があります。私の経験ではコピーテープにまで細かくリファレンス信号を入れていたのは英デッカ以外には見たことがありません。」
デッカ・オリジナルのサウンドを少しでも変質させてはならないというわけだ。
(以上、音元出版「analog」Vol.51、「レコードの奥義を極める」から)
2016年04月03日
 
 
 
山田和樹指揮の日本フィルを渋谷のオーチャードホールで聴いてきました。
実はこのチケット、元々は弟が購入(彼は大の山田和樹ファン)、楽しみにしていたコンサートだったのですが、急用が入り泣く泣く断念、棚ぼたで譲り受けたものです。

現在このコンビはマーラー・ツィクルスを進行中で、これは去年から番号順に年3曲ずつ、計3年かけて全9曲を演奏する長期プロジェクトです。彼の初めてのマーラー・ツィクルスですから、自分の成長とともに進めていきたいという思いがあってだそうです。
今年は2年目ですから4,5,6番を、1~3月に月1曲のペースで演奏会が開かれました。
私が聴いたのは今年の最後、交響曲第6番で「悲劇的」の通称で呼ばれる曲。マーラーの交響曲としては声楽も入らず、4楽章構成であるところも、束の間の古典回帰とも見ることが出来ますが、絶望から勝利を勝ち取るといったベートーヴェン以来の交響曲の伝統とは正反対で、闘争から最後は打ちのめされて破局を迎える夢も希望もない構成(しかも終楽章だけで30分近くかかる!)、カウベル(牧場で牛の首に着ける大きなベル)や巨大ハンマー(これで主人公はノックアウトされる)などが加わる楽器構成などは、やはりマーラー以外の何物でもありません。

山田のコンサートでもう一つ楽しみなのが、恒例となっている演奏前のプレトーク。
指揮者自身が曲の解説を分かり易く、自分たちのエピソードなども交えて40分以上かけて話してくれますので(今回は興が乗って時間超過、途中裏方から「巻き」が入りました)、たまにしかコンサートに行かず、楽曲解説を見る機会も少ない身にとっては有難いところです。

さて演奏はというと、大変充実した素晴らしいものでした。
さすがは若手のなかでも今最も注目されるひとりである山田の面目躍如というところで、とくに後半3,4楽章は申し分なく、演奏する彼らも満足のいく出来であったでしょう。
日フィルは曲の始め、1楽章では弦が今ひとつ集中度を欠き、響きが薄い印象でしたが、次第に指揮に熱が入ってくるとオケにも全体的にガッツが出てきて響きに厚みが増し、聴き応えがするようになりました。
全曲を通して金管、なかでもトランペットの外人さん(オッタビアーノ・クリストーフォリ、客演首席)とトロンボーンの主席は実に気持ち良くバリバリ鳴らしてくれて、こうでないとマーラーは気持ち良く聴けません。

そうそう、例の巨大ハンマー(写真2)は最近の通例どおり2回のお出ましでしたが、ズッドーンといい一撃(二撃?)をかましてくれ、気持ち良く打ちのめされることが出来ました。

沢山のマイクがセッティングされて、恐らくツィクルス全体をライヴで録った全曲録音がいずれ発売されるのでしょう。CDになって、どんな音で聴けるかも楽しみです。
2016年03月30日

 

恒例の会も第8回を迎えました。

まあ、毎回結局同じようなことをやって楽しんでいるのですが、今回はほんのちょっと趣向を変えて、先輩メンバーが自宅から「発掘」してきた古いレコードを、新進気鋭メンバーがかつての名カートリッジのコレクションをごっそり持参。
別に始めからそう企画したわけではないのですが、いつもとは役割が逆のパターンです。

写真に写っているレコードはウェストミンスター盤ですが、米本国盤ではありません。国内の日本ウェストミンスター盤です。
'50年代末~'60年代初頭の盤と思われ、本国オリジナル盤と見まごうばかり、ジャケットの厚紙やレコードのレーベルなど、最初はてっきり米国盤かと思いました(録音は'50年前後)。
当時米ウェストミンスターや仏エラートなどは日本コロムビアの関連会社、日本ウェストミンスターが発売していました。その頃の日本コロムビアは米コロンビアとの専属契約を行っていたからです。
従ってこの盤もプレスは日本コロムビアということになります。

これはやはり当時のモノラル専用針で聴こうということで、NEAT VC-3 で聴くと、ワルター・バリリのヴァイオリンの音色が生々しく響き、当時の音が「解凍」されて当時そのままに聴こえてくるように感じられました。
これこそレコード再生の醍醐味ですね。
2016年03月16日
 
 
 
代理店の方が、独Acoustic Arts 制作のアナログ・レコードのサンプルを持って来てくれました。

アコースティック・アーツはアンプを中心とするハイエンド機を擁するドイツのメーカーで、'09年、オーディオファイル向けにAcoustic Arts Audiophile Recordings レーベルを立ち上げ、今までVol.5 までのCDを発売してきました。

今回初めてアナログ・レコードの形でリリースされるのが、Vol.2 の女性ヴォーカル集です。
LP2枚にたっぷり15曲収録されていますが、すべて異なる歌手によるものでプロデュースも録音も別なのですが、いずれも上質なアコースティック録音で見事に統一感が取れ、オムニバス盤を聴いている気がしません。
スタイルは様々で、あっという間に1枚目を聴き通してしまいました。
そのなかでは一番最初、ノルウェーのBenedicte Torget の歌うSleep While が北欧を感じさせるひんやりと透き通った音楽が、優れた録音とともに最も印象に残りました。

ドイツプレス高音質重量盤2枚組。
少々高いレコードですが、十分楽しめる内容です。

Acoustic Arts Audiophile Recordings UNCOMPRESSED WORLD VOL.2 (2枚組LP/9,800円・税別)
2016年03月05日

 

これは雰囲気のあるヴィンテージ・プレーヤー、米エンパイアの598 です。
エンパイアというと、以前を知る方にはMM/IM型カートリッジのメーカーとして馴染み深い名前でしょう。

598 は'70年頃の製品で、ドイツ製ACモーターで2ピース構造のプラッターをベルト・ドライヴします。
サブ・プレートに取り付けたカートリッジを固定ヘッドシェル型アーム990 に着けるようになっています。このアームはダイナミック・バランス式で、ダイアルで針圧を印加します。見た目はごついですが精度は高く、特別に軽針圧でない限り普通のカートリッジを着けて聴くことが出来ます。

トーレンスの旧型やリン LP12 のように、プラッターとアームを載せたサブシャーシを本体からスプリングで浮かせた構造となっています。

モーターはまだ元気で大変静かに回りますので、錆びたプーリーを磨き、サスペンションを組み直して調整、電源ケーブルとアームケーブルを交換、各接点をきれいにして、アーム再調整、キャビネットの木部を磨くと大変きれいに蘇りました。
付いているオーディオテクニカのカートリッジを通しての音は、プレーヤーの外観どおり、たいへん濃厚な再生で、むせび泣くサックスにはやられました!
2016年02月11日
 
 
 
今年初めての、久し振りの「カートリッジ会」実施となりました。第7回です。
というのは、自主開催メンバーの一人(と言っても全部で2人、+作業員の店主)が就活+大学卒論で忙しく、それどころでなかったというわけ。
が、どちらもようやく終結、ほっと一息、晴れて息抜きが出来ることとなり、早速、「祝!内定&卒業・カートリッジ会」開催の運びとなりました。

今回、先輩メンバーの方がお持ち下さったのは、これは懐かしいDAM(かつての第一家庭電器のオーディオ・メンバーズクラブ)の「マニアを追い越せ大作戦」チラシ・コレクション!(写真上)
10部近くあるでしょうか、すべて当時そのままの状態です。
なかを見ると、有るは有るは、SATIN, entre, FR, GRACE, STAX, Dynavector, Victor, TECHNICS, audio-technica, DENON, SONY, Aurex, SHURE, PICKERING, ADC, STANTON,GRADO, ELAC, ortofon, DECCA, AKG, B&O..などなど。いま改めて見ると宝の山への地図のようです。

今回聴いたカートリッジは、前回の音が耳を離れないというVictor MC-1 を皮切りに、Hifonic MC-R5, EMPIRE 1000Z, 2000Z, ADC TRX-2, PICKERING XV15/750E, DENON DL103SL。
会の試聴曲の定番となったD.ブルーベックのTAKE FIVE の他、今回はバロック音楽のJ.C.バッハ/ヴィオラ協奏曲でも聴き比べを行いました。
2016年02月04日
 

 
昨年2015年の映画興行収益と観客動員数が発表され、微増ではありますが前年を上回って、洋画に限って言えば前年比112%となかなかの結果だそうで、映画好きにとっては嬉しいところです。

思えば以前一時は、街の映画館が軒並み閉館、もはや映画館で映画を見る時代ではないのか、といった報道を度々目にし寂しい思いをしていましたが、これには映画をパッケージするソフトがVHSビデオテープからDVDに代わり、家庭でも格段に優れた画質,音声で観ることが出来るようになったこと、同時にDVDになってソフトの価格も数分の一になってレンタルばかりでなく購入のハードルもはるかに低くなったことなどが影響していました。

でも映画館は絶滅はしませんでした。
確かに駅前にある古い映画館はほとんど無くなりましたが、映画館側も時代に合った生き残りを始めます。今賑わっているシネマコンプレックス、所謂シネコンというやつです。上映室のサイズは小さくなりましたが、ひとつの映画館内に複数の上映室を設け、トータルで利益を稼ぐという方式です。
同時にドルビー社の新しい高音質マルチチャンネル・スピーカーシステムを導入し、音響効果も古い映画館とは比べものにならない進歩を果たしました。
新しくきれいになった館内は席も大きく、ドリンクホルダーも備えて隣の席との間隔もゆったり、前後で段差を設けて前の人の頭が邪魔にならない配慮もされて、格段に居心地が良くなったのも観客の呼び戻しに大きく貢献したでしょう。
しかも今はインターネットでチケット購入、席の指定も出来、簡単に、安心して映画館に向かえます。

但しチケットの値段は基本1,800円と決して安いとは言えないですが、それでも行ってみようかという気になるのは作品の魅力はもちろん、上記のような映画館側の努力によるところも大きいはずです。
つまり自宅とは違って特別な楽しみ方が出来るのであれば、その価値に対してお金を払っても構わないということでしょう。

映画館で観ることが、こうして新たな価値観を生むことになって、一時どうなるのかと思われた映画館にはまた再び賑わいが戻ってきているわけです。

そう考えているうちに、おや、ちょうど同じようなことが他にもあったな、と気が付きました。
そう、アナログ・レコードの人気復帰と状況が似ているのです。
レコードはかけるのは面倒だし、新譜で買おうとするとCDより高価、今では1曲単位で好きな曲だけダウンロードして購入することも出来ますから、便利・安価・気軽なことではCDやネットの敵ではありません。
それでもレコードを聴く人が増えているというのは、CDやネットで簡単・手軽なソフトが出揃ったところで、聴く側もその中身をすっかり把握し、それらに無い十分な満足・感動を得られるもの、つまりレコードに対してなら少し面倒でもお金を出してもいいかな、と考え始めたのでしょう。

これは制作する側でも同じ、一部、心あるアーティストはアナログ・レコードでも新譜を出しているのは、ご存じのとおり。

音楽も映画も、好きなものは大切に観・聴きしていきたいものですね。
2016年01月22日
 

 
昨年から楽しみにしていた、巨匠スクロヴァチェフスキーが読売日本交響楽団を振るブルックナーの交響曲第8番・特別演奏会を聴いてきました。

会場は池袋の東京芸術劇場。スクロヴァチェフスキーは今回、この木曜日と2日後の土曜日、2回のコンサートだけのために来日したようです。曲もブル8のみ、文字どおり特別演奏会です。

今日本ではとても人気のある指揮者ですので、よくご存じの方も多いと思いますが、ミスターSこと(名前が長く綴りも難しいので世界共通の通称となっています)スタニスラフ・スクロヴァチェフスキーは'23年ポーランドのリヴォフ(現在はウクライナ領)生まれといいますから、今年で何と92歳となる現役世界最長老。
戦後パリで学んだ元々作曲家でもあり(7才でオーケストラ曲を作曲!)、'58年のアメリカ・デビュー以降、とくにミネアポリス交響楽団(後にミネソタ管弦楽団)では20年近くに渡って音楽監督を務め、レコード・ファンにはステレオ初期のマーキュリー・レーベルでの活躍でお馴染みです。

読響では2007年~10年の間、第8代常任指揮者を務め、すでに互いに厚い信頼を寄せ合う関係が築かれています。
店主も現役指揮者の中で最も敬愛する一人ですので、読響やN響との演奏会を何回か聴いてきましたが、ここのところずっとサボっていて、実演で聴くのは多分10数年ぶりではないかと思います。

客席は満席(2日間ともチケット完売!)、開演前から尋常ならざる熱気に包まれています。
通常、有名曲とはいえ重たいブルックナー1曲のみのプログラムで平日夜のコンサート、これほど席が埋まるのはそうはないでしょう。

いよいよ聴衆の前に現れたミスターSは、店主にとっては久し振りだけに、前回の記憶にあるのと比べると腰が少し曲がり、脚が悪いため指揮台への歩みはゆっくりで心配になるほど。
にもかかわらず指揮台には休むためのスツールもなく、老巨匠の心意気を感じます。ブルックナーの8番は1曲で1時間半近くもかかる大曲で、普通の人でも神経を使いながら休みなく立ち通すのはかなりの苦痛です。
指揮台に上がり聴衆に向かってお辞儀する間の拍手は、明らかに並のコンサート終了後の拍手以上の盛大さ。皆の期待の大きさがうかがわれます。
タクトを取ってさっと身構えた瞬間、視線は鋭く、棒を振る動きはきびきびと別人のように変貌。座っているのが1階6列目右寄りと、かなり前の方の席のため、ミスターSの指揮の様子が横の方から表情までかなりはっきり見えます。

第1楽章の開始は思いのほかテンポがゆっくりで、足元を踏みしめて進むような、意志の力を感じる進行です。
ミスターSは通常、かなり速いテンポで決して緊張を崩すことなく、敢えて余計な感情移入を避けているようにさえ聞こえるインテンポで進めることが多く、それが店主には場合によって少々淡泊に、いささか面白みに欠けて聴こえることがありました。
でも恐らくこれは彼の作曲家としての側面がものを言っていると考えられ、楽譜に書いてあることが全て、即ち作曲家の言いたいことは全てそこにある、との思いがあるのではないでしょうか。

しかしこの日のブルックナーは少し様子が違っていて、その原典主義が根底にありながら、もっと想いを赤裸々に表わすように聴こえます。
これには彼がかつてインタビューで、「最近になっていよいよブルックナーを振ることは私にとって特別なものになっている。ブルックナーの音楽との真の一体感を感じる」といった趣旨を語っていたことを思い出していました。

音楽は進むごとに熱を帯び、響きは厚く意志がみなぎり、すでに巨大な姿を見せていますが、同時に細部まで見通しが利き、神経が行き届いて、全ての音が生きています。
これは第1楽章だけで優にひとつの交響曲を聴くほどの体験です。
終わり近く金管が咆哮する「死の告知」のすさまじいこと。思わず息が止まります。
20分に近いこの楽章も、あっという間に終わってしまいました。

タクトを休めることなくそのまま第2楽章、スケルツォに突入。
これは最後まで聴いた後に感じたのですが、第1と第2両楽章をひとつの動的な音楽として捉え、次の最も長大なアダージョが中間部、最後にまた動的な第4楽章がくる、という対比で全体を構築しているように思えました。
そのためでしょうか、ミスターSとしては意外にも、第2楽章も、その前の楽章から引き継いで比較的ゆっくりとしたテンポで進められました。
その昔、ハンス・クナッパーツブッシュの演奏でブルックナーの8番に開眼して以来、この曲を聴くと常にそのゆっくりしたテンポが頭の奥で鳴るのですが、それと較べても遜色無いくらい堂々とした歩みです。
但しそこはミスターS、気力がみなぎりアタックは明確なので決して重くはならず、かつ巨大さは第1楽章そのままです。

そして今回の白眉であったアダージョ。
この楽章に限って言えば、少なくとも今までこれ以上のものを聴いたことがありません。「至福」というのはこのようなものを言うのかもしれません。
満足に浸りながら、30分近いであろう長大な楽章も、あっという間に終わっていました。
思えばこの部分が全曲のクライマックス、頂点に設定されていたようです。

その意味では終楽章、フィナーレはダイナミックなエピローグといった趣。
たっぷり楽章の間を取った後、開始されたそれは打って変わって快速で、ブルックナー自身の「コサック兵を弦楽、軍楽隊をトランペットのファンファーレで表す」という言葉通りの勇壮この上ない演奏です。
それ以降も揺るぎない意志の強さを示すが如くテンポは守られますが、最後のコーダにきて初めて僅かにテンポを落とし、今までの楽章のモチーフが重なり合いながら次第に響きを増していき、「生の勝利」を高らかに歌い上げるに至って驚くべきダイナミクスの盛り上がりをみせ、圧倒的な音の大伽藍のうち、最後の「肯定」の三連符をもって全曲が閉じられました。

すさまじい拍手喝さいとブラヴォーの嵐が巻き起こったのは言うまでもありません。
鳴り止まぬ拍手に、一体何回ミスターSは舞台上に呼び戻されたでしょう。歩くのに難儀するので申し訳ないと皆思いながらも、惜しみない称賛を贈りたいという気持ちが勝っていました。
最後は聴衆総立ちで、楽団員が全て引き揚げた後に指揮者だけ2回も呼び戻されていました。
こんな光景を見たのは朝比奈のブルックナー以来でした。

一体これが92歳となる人間の生み出す音楽でしょうか?
演奏会チラシにある『究極のブルックナー/響け、奇跡の90分。その全ての瞬間が永遠の記憶と化す』という謳い文句が聴いた後ではちっとも大げさでないばかりか、なんともうまく言い表しているとさえ感じられたものです。

今回の名演(もうこう呼んでもよいでしょう)には実力を十二分に発揮して老巨匠に応えた読響の力によるところは大きく、特に厚い響きで全体を支えた金管群のうまさには脱帽です。
どのパートもとにかく弱いとか危なっかしいということが皆無で、いかに指揮者に対して全幅の信頼、というより尊敬をもって楽団員が一丸となっているかがひしひしと感じられる演奏会でした(これは指揮者が何回も拍手で呼び戻されている間に、彼が立ち上がってと促してもオーケストラが応じず、総員で地響きと思えるくらいの盛大なリスペクトが示されたことにもよく表れていました)。

店主にとって久々に忘れ得ぬコンサート体験がひとつ、加わったのは間違いありません。
2016年01月18日
 

(産経WESTから)
 
お客様から教えて頂いた産経ニュースの記事をご紹介:

(産経WEST、2016.1.5)
『音楽の購入方法がCDからデジタル配信に移りつつある昨今、アナログレコードが復活してきた。
そこで注目を集めているのがレコード針を作り続けて今年で半世紀の老舗、日本精機宝石工業(兵庫県新温泉町)だ。
日本海に面した小さな町の従業員約60人の小さメーカーが手掛けるレコード針は世界で高く評価されている。その陰には、レコードが衰退した後も新ジャンルの製品を開発して生き残るしたたかさと、「一人でも欲しい人がいる限り」と製造し続けたレコード針への愛があった。

日本精機宝石工業がレコード針を製造し始めたのは昭和41年。
社名の英語表記からJEWEL(宝石)とINDUSTRY(工業)の頭文字に、企業を意味するCOをつなげたブランド「JICO(ジコー)」で展開し、今では国内外の約30社の製品に対応する交換針2,200種類を製造している。

売り上げの9割以上を海外が占めている。豊富なラインアップで、すでに製造中止となっているレコード針にも対応したことで、ネットを通じ世界中に評判が広がったのだ。
仲川幸宏専務は「アフガニスタンなどからも注文がある。製品を送る際に地元郵便局でとても驚かれた」と明かす。
「JICO」の名声は世界でも知る人ぞ知る存在になり、発送先は約200の国・地域に及んでいる。

そんな世界から注文が寄せられるレコード針は、工程の多くが手作業だ。
工業用ダイヤモンドを仕込んだ針先は直径0.25ミリ、長さ0.6ミリのサイズだが、女性工員らがルーペなどを使いながら組み立てている。

同社の前身は、明治6年創業の縫い針工場だ。蓄音機用の針製造を経て、昭和41年にレコード針に参入した。
昭和40~50年代は「SWING(スウィング)」というブランド名で、レコード店のカウンターに置けば瞬く間に売れたという。

しかし、57年に日本でCDの生産が始まると状況が一変した。音楽メディアがCDに入れ替わるなか、レコード針を取り次ぐ商社が倒産し、レコードにかかわる業界が斜陽化していった。

ここで同社が活路を求めたのは、レコード衰退の原因ともなった宿敵、CDだった。
CDプレーヤーの構造を研究したところ、内部のピックアップレンズが汚れると読み込みエラーを起こすことに着目。平成2年、CDの盤面に小さなブラシを付け、レンズの汚れを落とす「レンズクリーナー」を開発した。
DVDプレーヤーにも応用できたため、息長く需要は衰えず、主力商品として経営を支えた。
さらにレコード針に使ってきた工業用ダイヤモンドを別製品に加工。歯科用のドリルバーなどを開発し、経営の多角化を進めてきた。

その間も販売が落ち込み続けたレコード針。それでも製造し続けたのは、レコードがCDに主役の座を奪われるなか、当時の仲川弘社長(故人)が「一人でも欲しい人がいるなら作り続けよう」と決断したからだった。
レコードで音楽を楽しむ習慣が根付いていた欧米への輸出が底支えとなり、なんとか売り上げは会社全体の数%を保っていた。

こうした時代の荒波を乗り越えた先に待っていたのが昨今の世界的なアナログレコードの復活だ。当然、レコード針の売り上げも増え、会社全体の売上高の25%を占めるまでに回復し、主力商品に返り咲いた。
国際的な音楽団体「IFPI」によると、ここ数年はアナログレコードの売上高は世界的に伸び、2014年の世界での売上高は前年比約55%増の約3億4700万ドル(約416億円)に達した。

仲川専務は「地道にものづくりを続けてきた。これからも流行には流されず、JICOのファンを増やしながら、文化としてのレコードの価値を高めていきたい」と力を込めた』
2016年01月09日
 
地元荻窪のライヴハウス、ヴェルヴェット・サンでライヴがあるということで、取引先のSさんの計らいでヒグチケイコさんのレコ発ライヴ(CD発売記念)「between dream and haze」を聴きに行ってきました。

初めて行くこのライヴハウスは店から歩いて10分ほど、うちの店の2倍ほどの広さでしょうか。ビル1階のコンクリート打ちっ放しの空間にベンチシートが並んで、立ち見も出るほど満員状態。

ヒグチケイコさんはアメリカを中心に演奏,音楽理論,発声法などを習得、ジャズの名門であるボストンのバークリー音楽大学でも学んでいます。
ヴォイストレーナーとしの活動も長く、実際に聴いてみて分かりましたが、通常の歌唱というより発声と言った方がしっくりきます。

ジャズ・ヴォーカルとの先入観で行ったので、唸ったり,叫んだり,呟いたりするパフォーマンスに始めは面食らいましたが、歌というより発声という楽器が他のプレーヤーたち(ギター,パーカッション,ベース)と混ざり合って音響としてうねるさまを聴いているうちにだんだん納得していました。

Sさんに「これも一応ジャズのうちなのでしょうか?」と訊くと、「もはやこうしたものはジャンルを超えて、特に何と限定出来るようなものではないでしょう」とのこと、半ば答えが分かっていたような質問と反省しましたが、強いて言うといつも聴いているジャンルのなかでは現代音楽、それも前衛音楽のように聴こえたのは、多くの部分が即興に委ねられているからかもしれません。
ヒグチケイコさんも言っていたように、CDと同じ曲をやったとしても結果違った曲になるのは当然なのです。
そうなるとCDにする意味があるのかどうか、疑問は残りますが、やはりアーティストとしては折に触れてマイルストーンを残しておかないと気が済まないのかもしれません。

そうそう、ヴォーカルとともに、ナカタニタツヤという人のドラムス&パーカッションは実に様々な楽器と奏法(弦でシンバルを弾くのもなかなか)によって多彩な音響を創出して大変楽しませてもらいました。

とにかく、久々のライヴ体験でした。
2015年12月23日
 
 
 
さて今年も年末恒例のリスニング、クリスマスの「くるみ割り人形」と、大晦日の「第9」の時期となりました。
手持ちのレコード(CDは除く)から選定しなくてはなりません。特にくるみ割りは選択肢がそう多くなく、すぐ一巡してしまいますから、そろそろ新たな演奏を加えなくてはなりません(とはいっても年1回ですので余裕はあります)。

さてまず今年の「くるみ割り人形」は、名匠ドラティが久しぶりにアムステルダム・コンセルトへボウ管を振って入れた2枚組の全曲盤。
彼はアム・コンとはステレオ初期に「新世界」を入れたのみでしたが、その後晩年になって数タイトルまとめて素晴らしい録音を残してくれました。そのうちの一組です。
持ち前の抜群のリズム感覚はバレエ音楽でも大きな強みを発揮してくれます。

年末の第9は久々にレコード棚から引っ張り出してきた1枚、いや2枚組。
マルケヴィッチ指揮ラムルー管弦楽団の演奏で、交響曲第1番とのカップリング、店主にとっては取って置きのアルバムです。

今年はどちらも2枚組、聴く時間が取れるかが少し心配ではあります。
2015年12月17日
 
店主も創刊から愛読している「analog」誌 (音元出版)が今号で創刊50号を迎えました。
早くからレコード再生のためのアナログ・オーディオに特化した誌面で地道にアナログ・ファンを掘り起こし、現在のアナログ・オーディオ人気に一役買ってきたことは間違いなく、店主もこれからも100号,200号と号を重ねていくことを願って止みません。

さてこの最新号が届いてきてみると、おや?、本誌より厚い箱のようなものを背負って分厚くなっています。
開けてみると生成り色のわりと地厚のレコード・バッグが入っていました。真ん中には赤でanalog のロゴとトーンアームのシルエットが入って、なかなかいい感じです。
付録としては気が効いていて、レコード好きには実用性も抜群。
いつもは立ち読みの方も今号はこのバッグ目当てに、たまには買ってみては?

店主おススメ!
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